「ボタン1つで購入」が特許になる?アマゾンのワンクリック特許を解説!

オンラインショッピングで商品をカートに入れ、住所やクレジットカード情報を入力して——という手順を一切省略し、ボタンを1回クリックするだけで注文が完了する。
Amazonを使ったことがある人なら、あの「1-Click注文」の便利さを体験したことがあるはずです!

このシステムにAmazonは特許を取得しており、約20年にわたって競合他社を牽制してきました。
「そんなアイデアが特許になるの?」という驚きとともに、特許業界でも長らく議論の種になってきた有名な特許です。

また、あのAppleも、Amazonのこの特許に対してライセンス契約(他社の特許にお金を払ってその特許の内容を実施しても良いという権利を貰うこと)を結んでいました。

今回は、このワンクリック特許の内容と、その特許戦略としての意義を整理していきます。

目次

米国特許番号:US5,960,411
発明の名称:通信ネットワークを介した注文方法およびシステム
出願日:1997年9月12日
登録日:1999年9月14日
権利満了:2017年(米国)

日本では本特許そのものは拒絶となりましたが、同一出願を元にした分割出願が2件(特許第4,937,434号・特許第4,959,817号)として登録されています。

分割出願についてはこちらの記事で解説しています!

クライアント・システムにサーバ・システムから受信したクライアント識別子を永続的にストアし、
購入者固有注文情報と対応付けて予めサーバ・システムにストアされた情報を用いて、
アイテムを特定する情報を含む単一のアクションの実行に応答してアイテムの注文を行う

請求項の内容をかみ砕くと

・初回購入時に住所・クレジットカード情報をサーバ側に登録しておく
・ユーザーの端末(ブラウザのクッキーなど)には「クライアント識別子」(要はユーザーIDのようなもの)を保存しておく
・次回以降は「1回のアクション」(=今すぐ購入ボタンのクリック)で、サーバが識別子を読み取り、登録済みの情報を使って注文を完結させる

つまり「登録済みの購入情報をIDで引き出し、1アクションで注文を完結させる仕組み」が特許の核心です。

1997年当時、オンラインショッピングはまだ黎明期でした。購入のたびに住所やカード情報を入力するのが当然とされていた時代に、Amazonはいち早く「登録済み情報+1クリック」という仕組みを発明・出願しました。

この特許はAmazonに推定24億ドル(約2,810億円)をもたらしたという海外企業の試算もあります。
単に手続きを省略するだけでなく、「注文完了まで一歩でも多くステップがあると離脱する」というユーザー心理を突いた設計で、売上に直結する発明でした。

AppleはAmazonに非公開の特許使用料を支払い、App Storeでこの仕組みを使っていました。
世界最大のテック企業がライセンス料を払ってまで使い続けた、というのはこの特許の価値を端的に示すエピソードです。

Amazonは、ワンクリック特許を取得して間もない1999年10月、米国最大級の書店チェーンであるバーンズ&ノーブル(Barnes & Noble)を相手に特許侵害訴訟を提起しました。

問題となったのは、バーンズ&ノーブルが導入した「Express Lane」という注文機能です。
この機能は、一度登録した購入者情報を利用して、通常より少ない操作で商品を購入できる仕組みであり、Amazonは自社のワンクリック特許を侵害すると主張しました。

まず第一審では、裁判所はAmazonの主張を認め、バーンズ&ノーブルに対して「Express Lane」の使用を差し止める仮差止命令(Preliminary Injunction)を発令しました。これにより、バーンズ&ノーブルは機能を修正しなければ継続して提供できない状況に置かれました。

しかし、その後の控訴審では判断が覆ります。
連邦巡回控訴裁判所は、「ワンクリック特許の有効性にはなお重大な疑問が残る」として仮差止命令を取り消し、本案の審理が終わる前に競合サービスを止めることは適切ではないと判断しました。
これは「Amazonが敗訴した」というよりも、「特許が有効かどうかの判断が固まる前に差止めを認めるほどではないと判断したものです。

最終的に両社は2002年に和解し、本案について裁判所が特許侵害の有無を最終判断することはありませんでした。
しかし、この訴訟によって「Amazonはワンクリック特許を積極的に行使する企業である」という印象が業界に広まり、競合他社に対する大きな牽制効果を生んだと考えられています。


この特許が興味深いのは、国によって扱いが大きく異なった点です。

ヨーロッパ特許庁はこの機能を「当たり前すぎる」と判断し、特許として認めませんでした。
カナダも最初は特許を認めていませんでしたが、Amazonが訴訟を起こして勝訴し、2011年に特許が認められました。この訴訟の結果、カナダでは特許出願のガイドラインが改定されることになりました。

国・地域結果
米国登録(1999年)→ 2017年に権利満了
日本本出願は拒絶。分割出願2件が登録
欧州「当たり前すぎる」として拒絶
カナダ当初拒絶→Amazonが訴訟で勝訴→2011年登録
オーストラリア拒絶

カナダの特許庁は当初、「物理的な対象ではない」「ビジネス方法は特許の対象から除外される」「技術的ではない」という3つの理由で拒絶しましたが、カナダの裁判所はこれらの判断にいずれも誤りがあると認定しました。

この国ごとのバラつきは、そのままビジネスモデル特許の保護適格性に関する各国の考え方の違いを映しています。
また、この特許が出願された時代にはビジネスモデル特許という概念が普及しておらず、それに伴い各国の特許庁でも判決が異なったという側面もありそうです。

いずれにせよ、「同じ発明でも国によって特許になるかどうかが変わる」という属地主義の現実を象徴するケースとも言えます。

この特許の真の価値は「権利範囲」だけではなく、「取得したこと」が生み出すビジネス上の効果にもあります。
ワンクリック特許の場合、AppleへのライセンスやBarnes & Nobleへの訴訟提起が、競合他社に対して「Amazonの発明に近いことをすれば法的リスクがある」という強力なシグナルを送り続けました。

ショッピングカートを一度ユーザーに見せるように設計すれば、この特許は回避できます。
つまり技術的には容易に回避することができるのですが、それでも競合が回避を選択せず、この特許の権利範囲の技術を実施従った。

つまり「ユーザーの購買体験に非常に高い価値をもたらす設計の特許を取得した」という事実そのものが、Amazonの競争優位につながりました。

「広い権利範囲で出願し、訴訟も辞さないという姿勢を見せることで業界に抑止力をかける」という戦略は、今日のビッグテック企業の特許戦略にも脈々と受け継がれています。

ワンクリック特許はその先駆けとして、まさに知財戦略の教科書に載るようなケースだったと言えるでしょう。

それでは今回もお付き合いいただきありがとうございました!

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この記事を書いた人

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